パーパスとは何か

診断士

はじめに

最近、「パーパス」という言葉をよく聞くようになりました。

「会社のパーパス」と「個人(従業員)のパーパス」を一致させることによって、従業員のモチベーションや仕事へのやりがいを高めることができる。

という話です。大抵の場合、「会社のパーパス」が先に経営者らによって決められ、その後「個人のパーパス」が各従業員でたな卸しされて、どの部分が一致し、共感できるのか、に気づく取り組みがなされます。自身の志を問うきっかけとなり、その志をこの会社で叶えることができると気づけたとき、思わぬ力が発揮できる、ということです。

パーパスが一致しない場合は?

しかしながら、「個人」はそれこそ多種多様で、様々な価値観を持っており、必ずしも会社のパーパスと一致するとは限らないのではないか? 一致しない場合はどうすればいいのか? と私は思っていました。
この疑問に関しては、ネスレ日本元代表取締役CEOである高岡浩三さんが明確に答えられています。

会社のパーパスと自分が成し遂げたいことが違うのであれば、辞めるという選択肢も視野に入れるべき。ミスマッチの状態で働き続けるのは双方にとって不幸。

自分が、会社の方向性と違う価値観を持っており、自己実現が図れないなら、その会社にしがみつく必要はない、というわけです。
パーパスを会社経営の軸に据えると、以下のようになります。

・あらゆる判断はパーパスが基準となって決まる
・評価は、パーパスに沿った行動ができたかどうかで決まる
・採用は、パーパスに賛同できるか、同じ価値観を持つ人材かどうかで決まる
・入社後も、同じ価値観で仕事ができているかで、採用の成功が決まる

ということで、判断基準が明確になるという特徴があります。
ジム・コリンズも、

・最高の人材がいなければ最高のビジョンに意味はない
・同じ目的を持つ人を集める、正しい人材、コアバリューを支持する意欲的で自律的な人材を獲得することが重要

と述べています。
そうなると、もう一つ疑問がありまして、先に何が起こるか分からないVUCAの時代を乗り切るためには、ダイバーシティ(多様な人材やステークホルダ)が必要、とされたきましたが、同じパーパス(価値観)の人材をそろえて大丈夫なのか、これまでのダイバーシティの考えと矛盾しないのか、ということです。

パーパスとは何か

そこでここでは、そもそも「パーパスとは何か」について考察していきたいと思います。

次世代の特徴

まず、これからを担う世代の特徴(次世代の消費者)の傾向として、

・Z世代(1997~2012)、ミレニアル世代(1980~1990)は、最初からデジタルに触れ、学校教育でSDGs等を習い、世界的な課題解決(温暖化等)への関心が高い。

と言われています。
マークザッカーバーグが、ハーバード大学の卒業生に対して行ったスピーチ(2017年)では、世界的な課題解決には、大きなパーパスが大切だと言っていて、

・誰もが目的意識(sense of purpose)を持つ世界を創造することが、私たちの世代の挑戦
・パーパスとは、自分よりも大きいものの一部であるという感覚、必要とされている、取り組むべきより良いものに携わっているという感覚
・社会を前進させるために、世代的な課題(気候変動を止める、あらゆる病気を治す、民主主義を近代化する、誰もが学べるようにする)があり、これらはすべて実現可能。私たちは貧困をなくし、病気をなくす世代になれる
・自身の目的を持つだけでは不十分で、他者のために目的意識を生まなければならない
・気候変動に対処したり、パンデミックを防いだりできる唯一の国はなく、グローバルなコミュニティとして結集しなければ進歩はない

ということで、facebookを立ち上げて、みんなをつなげる役割をはたしている、というわけです。

これからの企業の対応

消費者の行動は、「ただモノを買うというより、社会を良くするために消費する」ことに移りつつあり、そのため、

機能による差別化から、体験による差別化(UX、CX)やD2Cによる世界観へ価値が移っていると言われていますが、そこでも差別化は困難になりつつあり、さらに、利用・購入すれば社会が良くなるという「意義による差別化」へとシフトする傾向にあります。

にあります。
消費者がそちらの方向に向かっているなら、会社もそちらの方向に向かわなければなりません。
これからの会社は、環境や格差、少子高齢化やダイバーシティなどの社会課題を無視して、長期的に存続し続けることは難しいと言えます。
ただし、これらの課題は大きく、グローバルに広がっているため、特徴としては、1つの会社で取り組めることには限りがあり、複数のステークホルダが連携する必然性が高いことにあります。連携する相手は「同じ社会課題の解決を志す同士」ということになります。そのためには、自分の会社は、「何の社会課題の解決をしたいのか」を対外的に示す必要があり、それを「パーパス」と言っている書籍もあります。一方で、社内(従業員)に向けて会社の価値観を提示する、これを「パーパス」とするものもあります。
書籍によってその定義は(似通ってはいますが)バラバラで、いくつか以下に示します。

パーパスの定義いろいろ

パーパス:社会的存在意義
ビジョン・ミッション:企業がなりたい姿を一人称で表現するもの、めざす姿や方向性
パーパス:多様なステークホルダが共存するあるべき世界の姿を三人称的に描く
ビジョン:理想の状態
ミッション:向かうべき方向性(社会に何を働き掛けたいのか)=パーパス:社会の中でどうありたいのか
バリュー:価値観
ビジョン:コアバリュー、パーパス、ミッションからなる
コアバリュー(理念):組織を動かす根本原則や信条を体系化したもの、絶対に守らなければならないもの。どのような価値観や理念を持つべきか、ではなく、心の中にある価値観や理念はどのようなものか、という問い
パーパス:会社が存在する根本理由、究極の意義、実現に向けて努力する目標ではあるが、決して完全に実現されることはない。1~2文で簡潔に表現、基本的な人間のニーズをどう満たし、世界にどんな影響を与えようとしているのかを完結かつ明快に伝える声明文。スケールが大きく、本質的で刺激的で永続性がある。100年にわたって会社の指針となりうるもの
ミッション:全社員のエネルギーを集中させる明快で説得力のある全体目標。明確なゴールと時間軸があり、心を揺さぶる力、本物の情熱、信念と挑戦する意欲、切実に手に入れたいもの。時間軸は10年くらい
ミッション:Why(存在意義)
ビジョン:What(未来の姿)
バリュー:How(共有価値感)
パーパス:Why ミッションに近いが本質的に違う
・パーパスはmeでもyouでもtheyでもなく、we、自らの思いと社会の思いが同心円を描く
・パーパスは原点と未来をつなぐもの
・パーパスは社外にとってはその会社らしさが強く伝わり、社内にとっては熱い思いをたばねるパワーの源泉

なお、Why、What、Howは、サイモン・シネックのゴールデンサークル(2009.9)と言われているもので、同心円の中心にWhy(なぜやるか)、その周辺にHow(どうやるか)、What(なにをやるか)がドーナツ形に広がるものです。多くのビジネスはWhatやHowにリソースを割きますが、Whyこそが重要で、価値の源泉とされています。

パーパスとは何か

ここまでの話をまとめると、「パーパスとは何か」、その定義そのものにはあまり意味がなく、

その企業にとって「本当にやりたいこと」が極めて重要である

と言えそうです。

「本当にやりたいこと」は社会の役に立つことにつながっている
「本当にやりたいこと」なので、コロコロと変わる性質のものではない
「本当にやりたいこと」に吸引された人たち(従業員)やステークホルダが集まって力を発揮する

話を最初の方に戻しまして、先の見通せない時代なので、変化に柔軟に対応できるようにするため多様な人材をそろえる、というダイバーシティとの整合性ですが、会社が「本当にやりたいこと」と価値観が全く一致しない従業員やステークホルダに対して、活躍や成果を期待することは難しいと考えざるをえません。ここでの多様性とは、価値観の多様性ではなく、会社が「本当にやりたいこと」(Why)と、従業員やステークホルダが成し遂げたい価値観はおよそ一致したうえで、結果として何を成し遂げたいか(What)、それをどのように実施したいか(How)についての引き出しや選択肢の多様性、がダイバーシティとして期待されている、と言えそうです。

参考文献
DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー「PURPOSE 会社は何のために存在するのか あなたはなぜそこで働くのか」
ジム・コリンズ「ビジョナリーカンパニーZERO」
マークザッカーバーグのハーバードにおけるスピーチ(Youtube)
名和高司「パーパス経営」
岩嵜博論、佐々木康裕 他「パーパス 「意義化」する経済とその先」